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港に近い廃倉庫にて、
小物ながらも要領よく情報屋をこなしていた男を捉えるという任務の詰めに掛かっていたらば、
標的がたまたま被ったらしく、顔馴染みのマフィアの武闘派二人と遭遇し。
器用に召し取ったがそのまま相手の異能に引っ掛かり、
保育園児ほどの幼子にされてしまったのが 重力遣いの中也さんと羅生門の芥川くんで。
犯人がずぼらをし、ちゃんと制御できぬままで放置していた異能だったがため、
太宰の“人間失格”も効かず、異能の解除には2日かかると宣されて、
『有給取った私たちと共に、事情聴取という名目の下で時間つぶしをするか。』
幼い姿、しかもすこぶるつきに美々しい和子になってしまった身、
本拠地へ戻って大人たちから女装だ仮装だと着せ替え人形扱いされるのと
どっちが良ぃい?と持ちかけられて。
手前がそうやって訊くときは選択肢なんてねぇんだよとばかり、(笑)
一緒にお籠りしましょと探偵社組から誘われたのへ応じたまではよかったが、
『さあ、芥川くんは私と帰ろうね。』
かつての師匠にして、今現在は半同棲中という想い人、
満面の笑顔つきの太宰からのお誘いへ。
だがだがどうしたことか、その身を遠ざけると
もう片やの引き取り手だった中島のお兄さんの腕へ
ぎゅむと縋りついてしまった芥川くんだったのであり。
「……。//////////」
ポートマフィアの禍狗と、自分のことを呼び、
初対面からこっち、冗談抜きに “貴様を殺す”という一途な、もとえ
恐ろしいまでの一方的な殺意をそりゃあ激しくぶつけられ。
出会いがしらのような遭遇だったらしいのに そのまま太宰さんに認められおって、
しかもそれをちいとも有難がらず、
悲劇のヒロインみたいにめそめそと立ちすくんでばかりいて、と。
彼なりの憤懣からのそれだろう、
強烈なまでの憎悪や怨嗟の凝り固まった貌しか見たことがなかったので。
敦としてはなかなか気がつかなんだのだが、
“穏やかな顔をしたら、そりゃあ綺麗な美少年だったもんなぁ。”
路地裏なんぞで顔を合わせりゃあ そのまま戦闘開始のゴングが鳴り響き、
漆黒の外套から生み出せし“羅生門”で織りなした、
でろでろと不気味な背景を負うたその上、
ぎりりと眉を顰め、鋭角な双眸尖らせ、口許も裂けんばかりに歪ませて、
鬼のようなご面相で “人虎っ”と叫びつつ黒獣を放ってくるよな相手だったものが。
剣突き合う理由がなくなってしまい、
気がつけば…お互いに有って無いよな非番を教え合い、
休みに落ち合っては出掛けるようになってどのくらいとなるものか。
そんなほど親しくなった相手だもの、
眉間にしわを寄せない顔だって頻繁に見るよになり、
年の近い兄人のように構ってくれるお顔見て、
実は白皙の美少年でしたと呆気なく知り得た敦だったりし。
なので、
「〜〜〜〜〜。」
一体 何に怯えているものか、
日頃あれほど慕っている太宰から逃げるよに、
こちらも小さくなった中也を懐へ掻い込んでいた もう片やのお兄さんの側へ寄り、
二の腕へぎゅうと小さな手で掴まっている小さな龍之介くんの、
それはそれは愛らしくも儚げな風貌に。
そっか子供の頃はこんな愛らしい和子だったのかぁと
ついつい見とれていた虎の少年だったものの。
さすがにこの状況はおかしいと、
なんか変だなという違和感に襲われて、おややぁ?と暁色の目を見張る。
「芥川?」
もしかして自分が小さくなった分、
背の高い太宰さんが別な人にでも見えているのかな?
それとも記憶も小さいころに遡ってしまい、
何年分か大人になってる太宰さんが本人だと判らないとか?
“…いや、それはないよなぁ。”
同じ異能に掛かって やはり何年分もを幼くなった中也の方は、
付き合いだして日の浅い敦をちゃんと見分けてくれている。
それどころか、
此処へ飛び込んで異能を操る情報屋を捕まえるという任務にあたっていたの、
小さくなってもきっちりこなしていた二人だったのだ。
よって、記憶の混乱という副産物は付いて来てはないはずだけれども。
そして、
「芥川くん?」
見るからに拒絶するよな態度をされて、
信じがたいという愕然とした表情になった太宰の心中も察して余りある。
実は元マフィアの幹部でしたということが明らかになる以前から、
この黒の青年へは、知り合いのようなのにそりゃあつれない態度を取ってばかりいたお人。
実は…そうせざるを得ぬ 根深い“事情”があったらしくって、
縒りを戻して以降は 打って変わって何かを取り戻したいかのような勢いで
何はさておいてもという構いようなの、敦もようよう知っており。
そしてそして芥川の側でも、
念願叶った睦まじい関係なこと、
慎み深く含羞みながらも、嬉しそうに受け止めていたはずではなかったか。
「…芥川?」
しゃがみ込んだ白虎の少年と同じほどという背丈になってしまった、
間近に寄った小さな坊やへ、敦からも“どうしたの?”と案じるように声を掛ければ、
「〜〜〜〜〜。」
甘く濡れた射干玉のような瞳をゆるゆると揺らしもって、
困ったように ううう〜〜っと唸っては幼いお顔を曇らせる。
そのまま少々躊躇ってから、
「………じんこ。」
いつものようにそう呼んだのへ、なぁに?と笑顔で返す敦で。
語尾がやや泳いでいて抑揚も浅いのは、子供になって舌が上手く回らないからだろう。
そういえばさっきも、太宰を “だじゃしゃん”と呼んでいなかったか。
それは愛らしい口利きへ、ついのこととて微笑ましいなぁとくすぐったげに笑っておれば。
口許へ唇を引き込むようにして噛みしめ、
何へか戸惑うような様相を依然と続ける龍之介くんであり。
顔を上げるとやはり自分を見やっていた中也へ向けて、
「ちゅやしゃ。」
そうと呼びかける。
こちらもいとけない態度で 応とお返事した中也だったのへ、だがだがそれでは足らぬのか、
口許を噛みしめるお顔は晴れぬままだ。
何とかしてほしいのだろ “何か”を上手に言えなくて、それでむずがっている彼なのか?
傍に居合わせた3人を、それぞれ呼んでみた彼だということへ、
う〜んと考え込んでた敦と中也だったが、
「…っ。」
小さく、もとえ幼くなってもそこは年の功か、
中也の方が何にか気づいて顔を上げ、
「もしかして、名前さえちゃんと呼べねくて こまってるのか?」
「……っ!////////////」
図星だったか、はっと小さな顎を上げ、ますますとお顔を赤くする漆黒の王子様。
今は足元まであるブラウスに、中也が着ていた中衣を羽織ったお姫様のような姿の和子へ、
「だいじょうぶだぞ芥川。
こいつが昔、何かにつけて殴ったり蹴ったり踏んだりしていじめたの、
またくり返すと思ってんなら、それはもうやんねぇから。」
「えっ!」
さすがはマフィアだ、
きっと今の自分より小さかった頃からそんなして折檻されてた彼なのだろうな、
それでも必死で食らいついてた彼なのも想像するにしくはなく。
だからこその、すげなくされていてもの従順ぶりだったのか そうかぁと。
一瞬で様々な過酷なシーンが脳裏を駆け巡り、(自身の体験 参照)
ほろりと泣きそうになっている敦くんなの、
中也はぎゅうと狭まった懐ろだったことで、
太宰は自身へ向けられた物言いたげな視線で 頬に肌に感じつつ、
「かつては酷いことをさんざんしたね。」
するりとこぼれた声に、だが、龍之介くんの様子は特には変わらず。
ただただじっと、
視線が同じ高さとなったままの、包帯のお兄さんの方を見やって固まっている。
そういえば、怖がっているようではなかったなぁと、
きゅうと掴まれたままなシャツに縋る小さな手を見やる敦であり。
ふくりとして柔らかそうな手は、
震えてもなければ 節が白くなることもない力加減で掴まったままで。
しっとり柔らかそうな小さな口許も、
今はさほど逼迫してはないものか、ぎゅうと噛みしめられてはおらず。
小さな薔薇の蕾みたいに、上唇の縁がつんと立っているのが愛らしい。
少しは落ち着いたのか、黙って太宰のお話を聞いている和子であり、
そんな彼へ、愁いをおびた目許をやんわりとたわめつつ、
「今更弁解はしない。
あの頃は何も判らぬ全くの白紙だったキミだったから、
取り急ぎ、いろいろと叩き込みたかったのだしね。」
そこはおぼろげながら敦にも判らぬではない。
およそ常軌を逸した次元で、命のやり取りも“業務”であろう犯罪組織。
しかも今や関東一円にとどまらぬほどの影響力を持する、悪名高きポートマフィアだ。
面子が立たぬなんてな理不尽な理由さえ堂々とまかり通り、
たとえ当人はまだ実務につけぬ幼い身でも、
襲撃に巻き込まれる危険性はどうかすると一般人より高かろうし、
弱みに付け込もうとするよな輩によって手頃な人質として拉致される恐れだってある。
普通一般の幼子のように非力なままいい子いい子で庇われていては生き残れないとされ、
そういったことへ少しでも対処できるよう、
危機意識を育むような教育や訓練は早くから処されようし、
痛みや毒への耐性だって刷り込まれもしよう。
“ボクは今の優しい太宰さんしか知らないけど…。”
今現在の物腰も穏やかで思慮深い大宰しか知らぬ敦だが、
荒事が降りかかった際の判断力や身捌きの冴えなどには一切の無駄がなく、
飄々としているのだって余裕と捕らえれば、底のない実力の裏返しに過ぎなくて。
先だっての、烏合の衆ながらも暴力集団から喧嘩を売られて、
下手な小細工をすべて看破したうえで見事に買いたたいた騒ぎといい、(アダムとイブの昔より)
どれほどの辣腕を振るっていた曲者か、具体的には想像できずとも把握くらいはしてもおり。
そういう立場にあったなら、竦むこともなく惑いもせず、
マフィアの流儀とやらを叩きこもうと、疑いもなく処していたことも伺えはする。
“でもそれって、子供にはつらいばかりだったろなぁ。”
これこれこうでという理由も恐らくは噛み砕いて告げられないままに、
処された暴力だったなら、音を上げてしまっても無理はなく。
それを耐えたからこそ、今のこの子があるのかと、
感慨深げに思いつつ、二人を黙って見やっておれば、
「けれど今のキミには、そんな躾は必要ないだろう?
すでに何でもこなせる大人で、
困った事態になって思うようにこなせなくなったって順番だ。」
「れ…でも、お名前よべにゅは はじゅかしいのれ…。////////」
言ってる端から、舌が回らないことが露呈され。
普段が普段で それは礼儀正しくも四角い物言いしているだけに、
金糸雀のような軽やかで甘いお声が、制御のならぬまま幼い片言紡ぐのは、
まるで先程取り押さえた無様な異能者のようだ、と
自分でも相当恥ずかしいものか、
敦のシャツを小さな手で握り込むほどの羞恥に震え。
滅多にないが俯くとお顔が隠れるほど、そこだけ顎先まで伸ばした横鬢の、
毛先が白い髪の隙間から覗く頬やら耳やら、
たちまち真っ赤になってしまう龍之介くんだが。
「呆れたり馬鹿にして嘲笑ったりなんてしないから、安心したまえ。」
大きくて頼もしい手が、ぽそりと幼子の頭の上へ乗っかって。
子供らしい細い質のつややかな髪を指先が絡めてはそおと梳いてゆく。
「むしろ、あの頃出来なかった分、いーっぱい甘やかさせておくれ。」
あの頃は片側の目許まで包帯に覆われていた、
衣紋から表情からどこもかしこも黒くて冷ややかだった青年は、
大人になった今、同じ端正なお顔をそれは暖かな笑みで染めて笑いかけてくれて。
ああ、そうだった。
あらためて すぐの間近まで寄っても良くなったこのお人は、
それは朗らかに微笑ってくれるようになった。
含羞みから口ごもってしまっても、
叩くどころか、その懐へ閉じ込めたいかのよに
頼もしい腕で囲っては ぎゅうと抱き寄せてくれるよになった。
何につけてもそうと甘受されようなどと、思い上がってはいけないのだろうが、
「………はい。///////////」
おずおずと伸ばされた小さな手、
せっかちにも引っ張ることなく待ち構え。
何でもこなせる頼もしくって大きな手の、
指の先っちょをぎゅうと掴まえたのを見届けると、
小さな痩躯へもう片やの腕を回して ひょいっと抱えてくれて。
足元に放置されてた黒外套を掬い上げ、そのまま颯爽と立ち上がってくれる人。
優しい匂いにふわんとくるまれるまま、
温かな懐へ頬を寄せて凭れかかれば、
どれほど愛おしいかを伝えるように、
塞がった手の代わり、細面の顎先や頬で、
龍之介くんの頭をすりすり撫でてくれ、
「じゃあ、お先に。」
先程 頭上を飛び越えた時に中也が掛けたお声よろしく、
そんな一言言い置いて。
小さな和子を抱えた若々しいパパのよに、
懐の愛し子へ柔らかな笑みをふんだんに振りまきながら
戸口へ向かって歩み去る長身が、外の明るみの中へと溶け込んでゆく。
「……。」
「えっとぉ。」
何かさりげなく可愛らしいお惚気を見せつけられたなぁと。
毒気を抜かれて佇むこちらの二人が、
ふと、お顔を見合わせて苦笑をこぼし合い、
つらい想いをまたするのかとしりごみしてたのじゃあなくて、
太宰の手をやかせる身になったのが はずかしくて、
そばには居られないと思ったのだろうな。
凄いですねぇ、そんな感覚によくなれるなぁ。
ここぞとばかり、あの頃は辛かったですと持ち出さないなんて。
中也の感慨深げな声へ、敦も感心しきった声で返しており。
「…てめえなら そうすんのか?」
「さて、どうでしょうね。」
中也さんはいつだってそりゃあ優しくて気の付く人だから、
恨みごとなんて今のところはあんまり抱えちゃあいませんが。
「…あんまり?」
「男女を問わずで、モテすぎるのがちょっと…。」
しかも無意識にってのがたち悪いかなと。
ほほー、ゆうようになったじゃねえか。
じぶんだっておとこもおんなも さいたいしゃでも、
かわいーってむちゅーにさせまくるくせに。
「…ちゅ、中也さん、
その片言口調でいっぱしなこと言うのやめて。//////////」
少し高い目になった幼いお声で、
だがだが結構達者な物言いをされて、
そのアンバランスさに翻弄されてか、
こちらではお兄さんの方が真っ赤になっており。
倉庫の入り口は、暗転しているところへ目映く切り抜かれた、
まるで映画館のスクリーンみたいで。
そこから先の光の世界へ自分たちも向かおうと、
懐に掻い込んだままな中也を抱き上げて、
敦もまた、のんびりした歩調で歩み出す。
お腹空きましたよね、帰ったら何食べますか?
オムレツやパンケーキなら作れますよ?
あ、ナポリタンもこないだ作ったら好評でvv
ふみ台あったら、オレだって作れるぞ?
フライパンとかは いのーで浮かしてよvv
えー? こんな時くらいお世話させてくださいよぉ。
幼い子供相手とは思えない、
取りすがるよな声を出す青年の声が、
乾いた潮風に撒かれて混ざリ薄まって。
二人の姿もまた、明るい陽だまりに飲まれて仕舞い、
白いハレーションの中へと消えてゆく。
「ところで中也さん。」
「んん?」
「とむらいがっせんって何ですか?」
「…っ☆」
◇ おまけ・後日談 ◇
何年ぶりどころかここまで幼くは無かった、
愛し子のそれはいとけない姿や甘いお声に萌えまくったし、
動画は勘弁してと逃げられたので静画止まりだったが、
心の癒しになろう家宝の写真もたんまり収集し、
たった二日ではあれ楽園での休養が堪能できたらしい包帯巻き巻きお兄さんが。
あの折にとっ捕まえた情報屋のデータを取り交わすこととなり、
ポートマフィア代表の素敵帽子さんと、人通りのない埠頭で落ち合っていて。
黒の青年がしっかり元へ戻ったのと同様、
こちら様もすっかりと元通りの伊達男へ戻ってござったが、
「そうかな。まだちょっと縮んだままなんじゃあないの?」
「何を証しにそんないい加減を言ってやがるかな 」
寄ると触るとこうなってしまう相性も相変わらずなので、
戻ったっちゃあ戻ったには違いない。(笑)
「それにしても。」
交換し合ったUSBメモリの中身を携帯端末で確認し合い、
二人しかいないからこそということか、ふと太宰が口を開いたのは、
「キミと芥川くんの二人だけで奪還に当たったって、一体どんな極秘資料だったんだい?」
数でかかってもあの異能で逃げられた恐れは大で。
足手まといを増やさぬよう構えただけだって作戦も判らんではないけれど、
それにしたって少数精鋭としすぎだろう。
せめて連絡係や見張り、索敵要員くらいは連れてきてよかったはずだがね。
「……。」
暗に、身内にも洩らしたくはない何かを奪還する作戦かと訊いている彼なのへ、
そのくらいは察した中也は、だが、
「…教える義理はねぇ。」
すげない一言を返したのみ。
帽子の帯に下がった鎖飾りが陽光に光るのを見下ろして、
チョイと不満げに眉を上げて見せた太宰が付け足したのが、
「もしかして、エリスちゃんのドレス用の採寸資料とか、
キミの天然記念物並みに伸びないでいる身長の経緯とかじゃあなかろうね。」
「あのなぁ〜 」
冗談はさておき。
くつくつと笑った太宰は 敦が居ないからこその本題を問うてくる。
曰く、
「ああまで人員を限った割に、
手っ取り早く“殺して”から探すって手を使わなんだのは何故だい?」
あの急襲へ割り振られていた布陣、中也と芥川という取り合わせだったのは、
太宰が口にした指摘通り、大袈裟に構えず、誰にも知られぬまま、
速さ優先でちゃっちゃと方をつけたかったからこそであろうが。
実をいや、もう一つの…それこそマフィアならではな意味も窺えて。
片やが抑え込み、もう片やが問答無用で瞬殺するのにうってつけな
最強の布陣でもあったのにねと
まさか、あの場に敦くんがいたので
方針をソフトなそれへすり替えたとかってんじゃなかろうね。
「いけなかないが、
そんなことしてその身を危うくしてちゃあ本末転倒じゃないのかい?」
今は甘やかすばかりな芥川がいたことさえ、そのような手筈となった理由にしないで。
それは冷徹な貌をした太宰なのへ、
「そんな甘いこっちゃねぇよ。」
そのくらいの理屈はそれこそ判りきっていたものか、
肩をすくめるとハッと短く息をつくよにして、中也は馬鹿々々しいと嘲笑う。
いくら愛し子とであれ天秤にかけてどうすると、
冷徹であらねばならぬ肝は重々判り切っていると嘯きたいよな顔になり、
「あ奴の贔屓筋には、経済界の重鎮が2,3いたんでな。」
それがマフィアに消されたなんて話が広まりゃあ、痛くもない腹をますますと探られる。
懇意にしている顔役から“困ったことをしてくれた”というツッコミが入って、
あとあとへの貸しにされても剣呑なので、
「それよか、あっさり掴まってネタって資産を攫われたという恥を掻かせた方が、
情報屋としての評判も落ちるだろうから、」
あくまでも“最適解”をなぞったまでと。
愛用のシガーケースを取り出すと、白い紙巻を一本指先で摘まみ取り、
肉薄な口許へフィルターを挟みながら取り出したライターで、
伏し目がちになった視線の先へ、慣れた仕草で火を点ける。
やや俯いた格好の帽子の縁をするりと撫ぜて、
細い絹糸のような紫煙が立ちのぼり、秋空にゆらゆらほどけてく。
ヤマシタ公園の銀杏並木も金色に染まり、
舗道に躍る渇いた枯葉をそれと気づかず くしゃりと踏みしめ、
恋人同士が身を寄せ合って歩む冬も間近い、
そんなヨコハマの昼下がりだった。
〜 Fine 〜 17.11.15.〜11.18. *蛇足篇へ → ■
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*小さくなった芥川くん、
敦くんへは舌っ足らずになった姿とか見せても良かったようで。
「ここんところの日頃 甘えまくってますからねぇvv」
ドジっ子ならではな心境は判ると思われたんじゃないでしょか♪
そっかぁ、あのままなら両手に花だったのになぁ、そこは残念だったかなぁと、
マフィアの武闘派筆頭二人を捕まえて
そんな回想できちゃうこの子も只者じゃなかったり?(笑)

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